「妄想劇場の産物」(取扱注意)
だそうです。

(↑ご本人様の意向により、再び、くれぐれも表記しました。)





たしかにちょっとこっ恥ずかしい箇所がありますね(笑)

805さんが、サイトに載せる事を心配してらっしゃったのですが、

続き物なので、続きを待ってる読者様のために、

「注意書きを大きくする」という条件付きで、公開のお許し頂きました。

この手の内容は、(原)作者はノーコメントの方が良いと思います。

でも、安心して 「最後まで」 お読み下さい(笑)













- 小話・4 -


 
 
 
 夜毎繰り返される滅びの夢は神の啓示だと畏れてきた。
 
 月明かりのない夜に瞳を閉じれば、夢をうつつに遷す。
 
 迷信だとわかっていても、そう信じるだけの凶事も不運も目の当たりにしてきた。
 滅びの元凶たる自らを屠るため、毒を呷り闇へ落ちた夜。国にも王家にも民にも囚われない自分がいた。今となっては、死の直前にも死後にも許されぬ事。しかし再びあの瞬間の、胸を焦がすような夢を見ることが出来るなら・・・・誘惑は今でも奥底に潜む。
 瞳を開けたまま、畏れも、迷いもすべて闇に沈める。うつつには何も還してはならない。心一つ動かしてはならない。
 
 
 人の気配がして我に返る。
「眠れませんか?」
 気付けば、寝室の戸口にライデンの声。
「なぜここにいる」
「ロイナス殿から王様の秘密を一つ、いただいて参りました」
 暗闇の中、目をこらすが何も見えない。だか、かすかな足音が躊躇なく寝台へ近づいてくるのが分かった。彼女の目は暗闇に慣らされているらしい。すぐ間近で声がした。
「明かりをつけましょう」
「いらぬ。何をしに来た」
 まるで聞こえていないかの様に、枕元の燭台に明かりをともす。そして寝台の横に腰掛け、『王子様の絵本』を示した。
「新月の夜、王様は眠れない夜を過ごすので、絵本で寝かしつけてこいと」
 
 見覚えのある絵本だ。誕生日に父王から賜ったおとぎ話の本。甘い夢物語などもういらぬと、確か牢屋の本棚に押し込めていたはず。
「ロイナス・・・・馬鹿な事を」
 嘆息をもらす。
「どのお話がよいですか?王子様の話、魔女の話、竜の話・・・・」
 ライデンが目次を開く。
「終わりの話はいかがです?死に損なった一人の男が還ってくる話」
 構うつもりはなかった。だが告げたはずのない過去の罪を、突かれたと錯覚した。
「やめろ」
 ロインズは低く声を押し殺す。
 絵本を取り上げようと手を伸ばしたが、ライデンが身を翻し、届かなかった。
「もし、眠っておられたのなら、私はそのまま立ち去るつもりでした。でも、あなたはまだ眠れない」
 睨み付けるロインズに真っ直ぐ視線を返し、ライデンは続けた。
「あなたは、夢をうつつに還すことを怖れている。ただの迷信に過ぎないことは誰もが知っていると言うのに」
「もうよい、構うな」
「いいえ、構います。私がお側に戻ったのは形だけ? 隠さず告げてください。ただの子供に過ぎなかった頃とは違います。今の私なら、何を言われても重荷には感じません」
「・・・・」
「迷信の消し方も、ご存じでしょう? 悪夢なら、人に告げるだけで真実にならないのです」
 
 押し黙るロインズを前に、ライデンは再び寝台の横に座り直した。
 改めて絵本を開き、三枚の紙が挟まった頁を開いたまま手渡す。
 促されて見るとそのうちの二枚には見覚えがある。一枚目は自分が、二枚目はロイナスが読み書きを覚えた頃に、感想として書かせたものだ。それから最後の一枚。
「これは?」
「ミンミという少女、アクロの従者が書いたのだそうです」
 ライデンの口からアクロの名を聞くとき、意識して遠ざけていた感情が無意識に動く。
「おまえは、わたしの何を聞いた?」
「何も聞いてはいません。過去のことはどうでも良いのです。ですから、どうかこれからのことを・・・・」
 
 (変わられたほうがよい)
 賢者の言葉が頭に残っている。彼はすべてを知っていた。だが、直接の言及は何一つしてこなかった。
 手にした紙片の、たどたどしい書き文字を目で追う。
 (しななくてよかった・・・・)
 もう分かっている、あれは死ねない毒だったのだ。
 
「もう一度おたずねします。私がお側に戻ったのは形だけ?あなたが欲しかったのは、ただついて回るだけの従者ですか?」
 責める口調ではなく、淡々と、ただ静かにライデンは続けた。
「7年の償いの代わりに誓って下さい。もう秘密は作らないと」
 燭台のほのかな明かりが、ライデンのうつむく顔を照らす。
 (泣いているのか)
 何も感じなかった心の奥に、細波が立つ。
「馬鹿な事を」
 言葉と裏腹にロインズの声は微かに震えた。
 細波が重なり波紋が広がる。
 ロインズは顔を背け、両手を握りしめる。
「神は信じない。誓えない」
「でしたら、この絵本に誓ってください」
 ライデンは絵本を閉じ、ロインズの右手を取って表紙にのせ、自分の右手を重ねた。
「私も誓います。もうあなたを一人にはしません。たとえお側を離れることがあっても、心はいつもあなたと共に」
 
「ライデンそれは・・・・」
 息をのむ。分かって言っているのか。それは別の誓いの言葉だ。
 甘い夢の誓いに胸が疼き、闇が遠のくのを自覚する。漠然とした神への畏怖に対して、雑念とも言える感情が勝った瞬間だった。
 これは二人の絆を確かめる儀式。ライデンが何一つ、まったく自覚していないのを分かっていても、心の中で何かが跳ねる。
 大きく吐息をつく。
 
「・・・・分かった。おまえには何も秘密にはしない」
「不安も悲しみもすべて偽らないと」
「誓う」
 今この時、闇も悪夢も彼方へ飛んだ。
 (わたしもやはり、人の子か)
 
 温もりを確かめるように、ライデンの右手に自らの左手を重ねる。
 ぽつり。近くで雨音がした。明日は雨か。ロイナス達と測量器を試しに行くはずだったが、雨ならば仕方ない。明日の休みは、ライデンと二人で過ごしてもいい。
 
 ぽつり、ぽつりと規則的に雨音が増した。
 これまで押さえ込んでいた感情が次第に零れ落ちる。
 迷ったのは、ほんの一瞬だった。
「ライデン。早速だが、一つ目の秘密を聞いてくれぬか」
 彼女の右手をそっと引き寄せ、その耳元に唇を寄せる。
 無防備なライデンは避けようともしない。
 ・・・・あと少し、吐息がかかる程に近づいたとき、
 
 急に雨音が変わった。
 ゴツン。
 なんだ、この音は? 思わず、窓のある壁を振り返る。まるで、石でもぶつけたような音だ。
 
「ああ、時間のようです」
 ライデンは何事もなかったように立ち上がった。
「お話の続きは、明日にでも」
 一瞬の差で、振りほどかれた手を掴み損ねる。
 すでに一歩離れたところに立つライデンが、やわらかく微笑む。
「私も、一応嫁入り前なので。間違いがあってはならないとのことで。・・・・そろそろ退出の頃合いかと」
 カツン。
 再び音がした。
 寝台から跳ね起き、窓の外を燭台で照らす。
 あり得ないことだが、暗闇の中、石を持って振りかぶる人影と視線が合った気がした。なぜか直感的に相手が誰か分かり、思わず手近にあった壺を投げつける。が、手元が狂って当たらなかった。
 
 我に返り、部屋の中を振り返るがすでにライデンの姿はなく・・・・。
 
 
 (ロイナス、覚えていろ・・・・)












805さんからのアンケート
9)小話4の直後、ンズ様が取りそうな行動パターンはどれですか?
 a.ライデンを追いかける
 b.ロイナスを殴りに行く
 c.何事もなかった様に、寝台に戻り次の作戦を練る
 d.他


作者の回答
→ cに近いdで。
  何事もなかった様に寝台に戻り、何事もなかった様に寝ます(笑)




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