- 小話・ミンミ -


 こんにちは。ミンミです。
 彩国からアクロと、タンとシーザーとずっといっしょに旅をしてます。
 いま、ガウルグゥア国にいるの。
 
 
 **場面1
 
  ガウルとグゥアがいっしょの国になって、お祝いのお祭りがやっと終わるころ、シーザーがお客さんを連れてきた。
  顔はかくしていてよく見えなかったけど、せの高い人だった。でも、すぐに帰っちゃった。シーザーが追いかけていったけど見つからなかった。あとからへやに行ったらとびらがこわれていたから、もしかして「けんか」したのかな?
 「けんか」したなら「仲直り」すればいいって、悲しい気持ちと長くいっしょにいちゃだめだって、アクロは私にいつも言うのに。すごく変だった。
 あの人はアクロの「大切な人」だったんじゃないのかな? 本当は知りたかったけど、聞いちゃいけない気がしてだまっていた。
  アクロはその夜ずっと一人で部屋にいて、『ききょう』をきめた。
 
  次の日、『ききょう』のごあいさつをしにおしろへ行った。私はパズルちゃんの仲間の人たちの所で長い間待っていた。
 やっとパズルちゃんがもどってきて、
 「ミンミにお願いがあるんだ」
 「おねがい? なあに?」
 「すごく大切なことで、アクロに手伝ってもらいたいことがあるんだ。だからおうちに帰るのがもうちょっと先になっちゃうの・・・・ごめんね」
  すごく大切な事ってなんだろう?って考えていたら、アクロとシーザーがもどってきた。
 「ミンミ またせたね」
 (あれ?)
 そのとき、もどってきたアクロを見て、私はわかった。アクロの悲しい気持ちが軽くなってる。いつもいっしょにいるからわかる。
 「アクロ ちゃんと仲直りできたの?」
 アクロはちょっとおどろいた顔をしたあと、いつもみたいにやさしい顔でうなずいた。アクロはガウルに来てから心がザワザワしてた。でも今はとってもあたたかい感じがする。
 「ここにはまだ、ボクにも手伝えることがあったみたいだよ」
 だったら、『ききょう』できないのはちょっと残念だけど、あんまり悲しくない。それに、アクロが落ちこんだままだったら、シーザーも変になるんだもん。
  アクロの旅がうまくいくように助けることが、一人前の『じゅうしゃ』のお仕事だけど、私はまだ小さくて、お世話してもらうことしかできない。でもね、今の私にもできるお仕事があるの。
  アクロのお仕事がすむまで「待つ」こと。
 
  私はパズルちゃんに「だいじょうぶだよ」って返事をした。
 
 
 **場面2
 
  それから時々、アクロと書庫にいくようになった。
  じゃまにならないように、となりの部屋で待ってる。本を読んで、字の練習したり、絵を描いたり。ままごとも持ってきたけど、相手がいないとつまんない。「待つ」仕事も大変なの。
  すっごくたいくつしていたら、まどの外でチャラチャラ鎖の音がして、ロイナスがおりてきた。
  なんで、まどから?  何かのあそび? 
  ロイナス、すごくおどろいたみたいだったけど、私もびっくりした。となりの部屋にアクロをよびに行こうとしたら、
 「アクロに会いたくないんだ」っていって、泣きそうな顔でとめられた。
 「どうして?」ってきいたけど、答えてくれなかった。
 「たのむから、アクロをよばないでくれ」
  ロイナスがしんけんだったからお願いを聞いてあげた。でもその代わり、あそんでってたのんだ。
  ロイナスに「ままごとしよう」ってさそったら、ままごとやったことないんだって。だからミンミが教えてあげた。ミンミがお母さん、ロイナスがお父さん、お人形さんが赤ちゃんなの。アクロはいつもうれしそうに相手をしてくれるのに、ロイナスは顔がまっ赤になってた。変なの。
  しばらく遊んだ後、ロイナスがすてきな絵本を持ってきてくれた。きれいな絵がいっぱい! すごい、ガウルの国の竜ってこんなすがたなんだ。お姫様のご衣しょうもきれい。わからない言葉はロイナスが彩国のやさしい言葉で教えてくれた。彩国の言葉も話せるなんて、ロイナスはたくさんお勉強をしている『王子様』なんだなぁっておもった。
  かえる時間までに読み終わらなかったから、ちょっと残念。そうしたら、
 「もってお帰り。今度会ったときに返してくれたらいいから」って、かしてくれた。うれしい。いっぱい、お絵描きするんだ。
 
 
 **場面3
 
  夜にアクロが絵本のお話を読んでくれた。
 ハンスがお金持ちになって、どんどん意地悪な心になっていくところがいやだった。死にそうになったときも、悲しかった。お話はハンスが悪者みたいに書いてあるけど、本当はちがうと思う。お金とか、身分とかのせいで、きもちがうまく伝わらなくて、ハンスがひとりぼっちになったのがいけないとおもう。
 そう書いていたら、そばでご飯食べてたシーザーが
 「アクロも一人にしたら何するか分からないから、俺たちが気をつけておかないとなぁ」
 って、アクロを横目で見た。
 「ミンミ、あしたもアクロをちゃんと見張っておくんだぞ」
 そう言われて、
 (あーそうか!)
 って思いついた。ロイナスがアクロに会いたくない理由。
 「うん、わかった。アクロがロイナスに意地悪しないようにちゃんと見てるよ」
 そういったら、シーザーが大笑いした。
 「アクロ。おまえ今度はロイナスにちょっかい出してるのか」
 「人聞きの悪いことをいってくれるね、シーザー君。・・・まだこれからだよ」
  アクロがにやにやしながらこんなふうに話をするときは、注意しておかないと。
 「彼は将来、ガウルグウァ国だけで納まる様な男ではないから。これからも多分、長い付き合いになると思うのだ。今のうちに仲良くしておかなくてはね」
 「これからも何か縁があるのか?」
 「ふふ。もし縁がなければ、つくるまでだねぇ」
 アクロはきっと何か悪だくみしてる。
 でもね、ロイナスと仲良くなるためなら・・・・私も協力しようかな?!
 
 
 
 **場面4※都合上ちょっと年齢水増しバージョン(小話3.5)
 
  ロイナスがお城の庭園に連れてきてくれた。赤や白、黄の色あざやかなお花。ビロードみたいな花びらで、とってもいい香り。私知ってる。このお花は薔薇って言うんだ。ほかにも、見たことのないきれいなお花がいっぱいあったけど、知ってる香草をたくさん見つけて、足が止まってしまった。ラベンダーやカミツレ、セージ、レモングラス。月桂樹やオリーブ、ローズマリー、お船のなかでいちどだけ食べた「緑の宝石」ライムが小さな実をつけていた。
  アクロの書棚にあった図録でみたことはあったけど、同じ郷の商人がびっくりするお金で取引しているのを知っている。
 「くわしいな」
 「アクロの本で見た。でも、本物を見たのははじめて」
  お願いして絵を描かせてもらうことにした。
  待っている間、ロイナスは柱廊の円卓でアクロに借りた教科書を一生けんめい読んでいた。
 
  むちゅうで描いている間に、日が高くなってきた。紙に光が当たって、まぶしい。
 そう思っていたら、急にかげが・・・・ロイナスが後ろに立って日よけになってくれてた。
 だまったまま、私の描いた絵を上からのぞきこんでる。
 ライムの実を見ていて思い出したことがあって、聞いてみようかな・・・・
 「あのね、王子様が病気になったって聞いてから、アクロはずーっと変だったの。お船に乗っている間も、ガウルにきてからもちょっとこわい感じで」
 アクロにシーザーがおこってけんかしてたことも、思い出した。
 「王子様の病気がなおって・・・・王様になってからは、もとのアクロにもどったみたいだけど。でもやっぱり心配事があるみたい。シーザーはアクロと王様は知り合いだっていってたけど、ほんとなのかな?『ききょう』のごあいさつに行ったときもけっきょくお話ししていなし・・・・」
 いまになって、アクロは王様のために一生けんめいいろんな事をやっていたんだって分かった。いまやっているお手伝いも、きっとそう。タンもシーザーも、アクロがなっとくするまでやらせておけばいいっていってたけど。でも、私は考えてしまう、王様には伝わっているのかな?
 「あのね、ほかの国の王様はいつも周りにたくさん人がいて、たいていのことは周りの人がやってるんだって。でもここの王様はお付きのひとが一人だけで、なんだかさびしそう。アクロがね王様のことを・・・・」
 言いかけたところで、なにか変な感じがした。そう、香り。ロイナスとちがう香水の香りがして、ふり返って見上げたら・・・・ロイナスじゃない。にてるけど、ちがう人が立ってた。
 (王様!)
 あわてて手で口をふさいだけど、もうおそかった。どうしよう、王様の前で言ってはいけないことを言ってしまった。
 涙がでてきた。きっと「ばつ」をうける!
 
 「ロインズ」
  本物のロイナスが歩いてくるのが見えた。助けてもらいたかったけど、私は王様の淡い灰青色の瞳から目がそらせなくてうごけなかった。
 悲しいの? さびしいの?
 そんなふうに気持ちを外に出さないでいて、苦しくないの?
 
 「おまえ、子供を泣かせてるのか」
 「私はなにもしていない」
 「現に泣いているではないか」
 ロイナスが足もとにひざをついて、私の頭をなでてくれた。
 「どうした? ロインズにいじめらたか?」
 私は首を何度もふった。
 (私が悪いの。王様の陰口を言ってしまったの・・・・)
 言葉にしようとしても、なき声にしかならなかった。
 「この娘は」
 「アクロの従者だ。ミンミという。アクロがここにとどまっているので、帰郷できずにいる」
 「アクロの娘ではないのか?」
 「は? むすめ? まさか、ちがうだろ!!」
 ロイナスのうら返った声を聞いて、いっしゅんで、涙がとまった。
 本当におどろいたロイナスの顔がおかしくて、ふき出してしまった。王様と同じ顔なのに全然ちがう。
 「ミンミのお父さんは・・・・アクロじゃ・・・・ないよ」
 どうにか、言葉にできた。
 でも、さっき言ったことはもう取り消せない。どうしよう・・・・
 考えていたら、王様の声。
 「つづきを聞きたい。アクロは私のことをなんと?」
 「・・・・」
 「友人として過ごしたときもあったが、今はお互いの立場というものがある。昔と同じように語り合うことは出来ない」
 まよう。本当に言っていいのかな?
 「苦言でも良い」
 王様がそう言った。ロイナスを見たら「言ってごらん」とうなずいてくれた。
 私は、アクロの言葉を思い出しながら言った。
 「『おうさま』はここうのそんざいだけど、こどくになっちゃいけないって。ひとりぼっちはだめなの」
 言い終わらないうちに、ロイナスが笑った。
 私まちがって変なことを言った?
 「王様は孤高の存在だが、孤独ではいけないと。おまえには耳の痛い示教だな」
 王様はだまっていた。
 何も言葉をかえしてもらえないのは不安だった。
 王様は何も言わず庭園のはしに歩いて行って、ライムの実をふたつ取った。
 そして私の手にのせながら、
 「言葉は受け取った。アクロにそう伝えてくれ。驚かせてすまなかった」
 私の頭をぽんぽんとやさしくたたいたあと、行ってしまった。
 そのせなかに、ロイナスがさけんでいる。
 「おい、明日は遠出だからな。今晩はちゃんと眠って休めよ」
 王様はちょっと片手をあげて答えただけだった。
 
 「王様眠れないの?」
 「今晩は新月だからな。でも多分、今日は大丈夫だ」
 あれ? ロイナスがちょっと変な笑い方をした。アクロと同じで、何か悪だくみしてる?
 「明日、ミンミも一緒に出かけるか? 無理かも知れないが・・・・アクロも誘ってみよう」
 何の事を言っているのか分からなかったけれど、「お出かけ」には行きたい。
 でもきっとアクロは多分行かないって言う。「ボクは表には出ないほうがいい」って。
 
 「ともだちなのに、会って話しもできないなんて。アクロも王様もかわいそう」
 王様からもらったライムの実はいい香りがするのに、なんだか悲しかった。
 



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